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松山地方裁判所 昭和34年(わ)64号 判決

被告人 大川富成

明四三・一〇・二九生 無職

中川豊重

昭一一・一〇・三生 日稼

主文

被告人大川富成を無期懲役に、

被告人中川豊重を懲役拾五年に、

処する。

押収してある赤色ワンピース細紐一本(証第一号)は被告人大川富成から、同シヤベル一挺(証第四号)は被告人中川豊重からそれぞれこれを没収し、同現金百五十六円(証第十二号)は被害者永瀬留吉の相続人にこれを還付する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人大川富成は、昭和三十二年三月頃から出稼していたが、家族に送金しなかつたため、生活に窮した家族が偽電報で被告人を呼び帰したが、肩書住居地に帰宅した後も賭場の使い走り等により僅かな小遣銭を得る程度の働きしかしないため、一家八人は依然被告人の妻及び次男の日雇の僅かの収入で糊口を凌ぐ状態で、漸く就職の世話をして貰つても当該就職先に赴く旅費、衣服質受の費用等調達の方途もなく、苦慮していたもの、被告人中川豊重は、自活処世の能力に欠けるため、職を転々とした後日雇をしていたが、過度の飲酒のため近隣の飲食店等の借財が約弐万円にかさみ、その支払いに苦慮していたものである。被告人大川は昭和三十四年三月二日正午頃、被告人中川と同人方附近で雑談中、被告人中川も亦金銭に窮していることを知つたが、折柄通行中の知人から、泊部落内で前日来賭博が開帳中であることを聞き知つた。被告人大川は、由良部落の永瀬留吉(明治三十二年四月二十九日生)が賭場に赴く際には常に多額の金員を携行するらしいこと及び予て右永瀬から大規模な賭博開帳の情報が入つたら通報することを依頼されていたことを想起し、ここに被告人中川を仲間に引込んだ上右永瀬を賭博に藉口して誘い出した上共同して同人を殺害して金員を強取しようと決意し、被告人中川に対し、「金もうけがある、永瀬を呼出してやつてやろう」との旨申向け誘つたところ、被告人中川は、金員を強取する趣旨に解し同意したので、同日夕刻被告人中川方において落合うことを約して別れた。しかし被告人中川においては、その後右犯行に怖気づき、前記時刻頃行方をくらましてしまつたので、被告人大川は嘉村知行を誘い相伴つて前記永瀬方に至り、賭博への案内に藉口して右永瀬の誘い出しに成功したが、その間に嘉村も亦逃げ出してしまつていたので、殺害の実行を延期することとし、言葉巧みに審かる永瀬を帰宅せしめておいた。

第一、被告人大川は、翌三月三日午後六時三十分頃、殺害の用に供するため樫製棍棒(長さ五十糎、直径四糎位)及びワンピース細紐(証第一号)を携えて自宅を出たが、被告人大川をさけて映画観覧に赴こうとしていた被告人中川を捜し当て、同行せしめて前記永瀬留吉方に赴く途中、被告人中川に対し、「シヤベルをもつて行かにやいかん」旨告げた。ここに至り被告人中川は、被告人大川が永瀬を殺害して金員を強取の上、シヤベルをもつて死体を埋没する意思であろうと推察したが、その優柔な性格から被告人大川の指示に従い、附近にあつた自己の石材運搬船からシヤベル一挺(証第四号)を持ち出し、判示第二の犯行現場附近に存置しておいた。続いて被告人中川は、被告人大川から永瀬殺害の手筈を告げられるに及び、これを拒否して被告人大川から危害を加えられるよりは、むしろ被告人大川と協力して永瀬を殺害し、金員を強取する外なしと決意し、共謀の上、同日午後八時頃前記永瀬方に至り被告人大川においては右永瀬を今晩も賭博開帳中なる旨虚言をもつて誘い出した。同日午後九時頃、松山市大字興居島泊一二四一番地先の通称富幸浜の県道上に差しかかるや、被告人大川は前記細紐一本を被告人中川に手渡すなり、いきなり所携の前記棍棒をもつて右永瀬の頭部、顔面を数回殴打し、昏倒した永瀬に被告人中川が組付き、両手をもつて仰向けに倒れている同人の頸部を強く扼し、更に前記細紐を以て同人の頸部を緊縛絞圧し、よつて同人をして頸部絞扼による急性窒息のため即死するに至らしめて殺害の上、その場において同人所有の現金弐万円を強取してその目的を遂げ、

第二、被告人両名は直ちに前示第一犯行場所の東南方約百三十六米の同所一一九六番地先、小池静雄所有農具小屋の東方約一米の砂浜に前記シヤベルをもつて深さ約一米の穴を掘り、ここに右永瀬の死体を運んだ上、埋没せしめて以て死体を遺棄し

たものである。

(証拠の標目)(略)

法律に照らすに被告人両名の判示第一の所為は刑法第二百四十条後段、第六十条に、判示第二の所為は同法第百九十条、第六十条にそれぞれ該当するので、判示第一の罪につき、いずれも所定刑中無期懲役刑を選択し(以上はいずれも同法第四十五条前段の併合罪であるが、同法第四十六条第二項に則り、判示第二の罪の刑を科さず)被告人大川富成を無期懲役に処し、被告人中川豊重に対しては犯罪の情状憫諒すべき点があるので同法第六十六条第七十一条、第六十八条第二号に従い酌量減軽した刑期範囲内で懲役拾五年に処し、押収してある赤色ワンピース細紐一本(証第一号)は判示第一の犯行の用に供したもので被告人大川富成以外の者に属せず、又同シヤベル一挺(証第四号)は判示第二の犯行の用に供したもので被告人中川豊重以外の者に属しないから、いずれも同法第十九条第一項第二号、第二項に則りそれぞれこれを当該被告人から没収することとし、同じく現金百五十六円(証第十二号)は判示第一の罪の賍物の一部であつて被害者に還付すべき理由が明らかであるので刑事訴訟法第三百四十七条第一項に従い、これを被害者永瀬留吉の相続人に還付することとし、訴訟費用中、国選弁護人島川享に支給した分は、同法第百八十一条第一項但書を適用して被告人大川富成に負担させないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 伊東甲子一 加藤一芳 石田恒良)

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